「グリーフ」と聞くと、多くの方は「大切な人を亡くしたときの悲しみ」を思い浮かべるのではないでしょうか。
確かにそれは間違いではありません。しかし、本来のグリーフは、もっと広く、もっと日常の中に存在しています。
グリーフとは、「喪失に対する自然な反応」です。
ここでいう喪失とは、必ずしも“死”だけを意味するものではありません。
たとえば、
健康を失ったとき
役割を失ったとき
大切な人との関係が変わったとき
住み慣れた場所を離れたとき
これまで当たり前だった日常が崩れたとき
私たちは気づかないうちに、さまざまな「喪失」を経験しています。
そしてその一つひとつに、言葉にならない感情が伴います。
それこそがグリーフです。
「悲しみ」だけではないグリーフの正体
グリーフというと「悲しみ」と訳されることが多いですが、実際にはそれだけではありません。
・怒り
・不安
・後悔
・孤独感
・虚無感
・焦り
こうした感情が、複雑に絡み合いながら現れます。
しかもそれは一直線ではなく、波のように何度も押し寄せます。
昨日は平気だったのに、今日は何も手につかない。
何気ない一言で、急に涙が出る。
周囲からは「もう大丈夫そうだね」と言われるのに、本人の中では全く整理がついていない。
これは決して特別なことではありません。
むしろ、とても自然な反応です。
なぜグリーフは見えにくいのか
グリーフの厄介なところは、「外から見えにくい」という点にあります。
身体のケガであれば、見れば分かります。
しかし心の揺れは、本人が言葉にしない限り周囲には伝わりません。
さらに日本では、「迷惑をかけてはいけない」「弱音を見せてはいけない」という文化もあり、感情を抑え込んでしまう傾向があります。
その結果、
「こんなことで落ち込んではいけない」
「もっと大変な人がいるのだから我慢しよう」
と、自分のグリーフに蓋をしてしまう。
しかし、抑え込まれた感情は消えるわけではありません。
形を変えて、心や身体に影響を及ぼすことがあります。
眠れない
食欲が落ちる
人と会うのが億劫になる
理由もなくイライラする
これらもまた、グリーフの一つの表れです。
「死の後」だけではない——生きている今のグリーフ
一般的にグリーフケアというと、「死別後のケア」をイメージされがちです。
しかし実際には、人は亡くなる“前”からグリーフを抱えています。
たとえば、
大切な人が病気になったとき
認知症が進み、会話がかみ合わなくなったとき
介護が始まり、これまでの関係性が変わったとき
「まだ生きているのに、以前とは違う」
この状態もまた、大きな喪失です。
そしてこの段階で感じる不安や戸惑い、無力感は、誰にも整理されないまま積み重なっていきます。
つまりグリーフは、ある日突然始まるものではなく、
人生の連続の中で、少しずつ積み重なっていくものなのです。
グリーフに「正解」はない
よく「どうすれば立ち直れますか?」という質問をいただきます。
しかし、グリーフに明確な正解やゴールはありません。
早く元気になることが正しいわけでもなければ、
悲しみが長く続くことが間違いでもありません。
人それぞれ、感じ方も、受け止め方も、回復のペースも違います。
大切なのは、「自分の感じていることを否定しないこと」です。
そしてもう一つ大切なのは、「一人で抱え込まないこと」です。
グリーフは「弱さ」ではなく「自然な反応」
グリーフを抱えているとき、人はしばしば自分を責めてしまいます。
「自分は弱いのではないか」
「こんなに引きずるなんて情けない」
しかし、それは違います。
大切なものを失ったときに、心が揺れるのは当たり前のことです。
むしろ何も感じない方が、不自然とも言えます。
グリーフは「弱さ」ではなく、
人が人であるがゆえの自然な反応です。
誰かに話すことの意味
グリーフは、無理に消そうとするものではありません。
ただ、少しずつ「外に出す」ことで、その重さは変わっていきます。
誰かに話す
同じような経験をした人と出会う
安心できる場に身を置く
それだけで、
「自分だけではない」
「この感情を持っていてもいいんだ」
と感じられるようになります。
この感覚が、回復の第一歩になります。
パパンが大切にしていること
私たち一般社団法人パパンは、「死の後」だけでなく、
「生きている今のグリーフ」にも目を向けています。
孤独や不安を抱えたまま日常を過ごしている方が、地域には数多くいらっしゃいます。
しかしその多くは、支援の手前で止まってしまっているのが現状です。
だからこそパパンは、
専門的な支援の前段階として、
気軽に立ち寄れる場、安心して話せる場をつくり続けています。
大きなことをするわけではありません。
ただ、話を聴くこと。
ただ、そこに居場所があること。
それだけで、人は少しだけ前を向くことができます。
最後に
グリーフは、特別な人だけが抱えるものではありません。
誰もが、人生の中で何度も経験するものです。
そしてそれは、「乗り越えるべきもの」というよりも、
「ともに生きていくもの」なのかもしれません。
もし今、言葉にならない感情を抱えているのであれば、
それは決して間違ったものではありません。
その感情ごと、あなたです。
一人で抱え込まず、少しだけ外に出してみてください。
あなたのその一歩を、私たちは大切に受け止めます。
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